気持ちを落ち着かせる間もなく撮影が始まりました
こういった現場はあまりにも勝手がわからず、エキストラの方々のほうが私よりも慣れているんだろうな、こういうところ・・・
なんてボソボソ言いながら、スタッフさんに案内されるまま青コーナーに。
ふと向かいの赤コーナーに目をやると菅田将暉さんとその後ろにはセコンド役のでんでんさんとユースケ・サンタマリアさん。
ユースケさんも先ほどお話ししてくださったときの表情とは打って変わって役者の顔。
その「プロの切り替え」を目の当たりにして再び緊張が襲ってくる・・・
最初のシーンは(ここからネタバレになると困るので映画を観た方のみ読み進んでください!!)
ヤン・イクチュンさん演じるバリカンが新次に倒され全員がリングに上がるシーン。
そう、いきなりクライマックスのシーン。
台本には『「バリカン!!」と泣きながら叫ぶセコンド』
と書いているものの、バリカン役のヤン・イクチュンさんに初めてお会いしたのはついさっき・・・
正直、思い入れはほぼゼロ。
唯一あるとすれば、先ほど楽屋でしてくださった愛くるしい笑顔のみが私の涙への手がかり。
監督が叫ぶ
「よーい、スタート!」
・・・はじまったで!!・・・うわ!菅田君やっぱり演技すご!!迫力ある!!・・・遠馬(映画「共喰い」)の頃より大きくなったなぁ・・・いや何考えてんねん!あ!イクチュ・・ちがう!バリカン倒れた!行かないと!
「バリカーン!!」
泣かないと!!バリカン!ともに練習してきたバリカン!・・・ともに?いや初対面やし・・・バリカ・・・泣けへーん!!
「カット-!!」
無念。
落ち込んでいると助監督が叫ぶ
「では一旦休憩挟んで本番行きます!!」
・・・あ!リハーサルやったのね!!
助かった。私の大根っぷりが全国に流れるとこやった・・・
くたくたでリングを降りようとするとADの女性がティッシュを演者に配っている。
それを受け取る演者の方々。
私もティッシュを受け取る。
しかし、使い方がわからない。
「あ、汗か!!」
とようやく用途に気づき、ティッシュで脇を拭いていると様子がおかしい。
周りを見渡すと、他の演者の方々は渡されたティッシュで涙を拭いている。
「涙やったん!?」
私は一切濡れていない瞼の下を恥じらいで真っ赤に染め、ティッシュを脇に挟んだまま楽屋に向かった・・・
楽屋につくとそこにいたのはでんでんさん。
「うわ!冷たい熱帯魚で狂気な殺人鬼を演じてた方や!!最優秀男優賞や!!」
恐る恐る少し離れた席に座ると
でんでんさんがニコニコした表情でこちらを観てる。
「うわ!この表情、冷たい熱帯魚で相手をめった刺しにするときの笑みやん・・・なに!?」
と怪訝な表情にならないようむりやり笑みを浮かべ挨拶をし、すぐ目をそらすとでんでんさんが話しかけてくる。
「似顔絵描こうか?」
・・・は?
それがでんでんさんが私に初めて話してきてくださったときの一言です。
元コメディアンでもあるベテラン奇才役者、でんでんさんから頂いた「演技のコツ」はまた次回・・・